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切羽へ (井上 荒野)
 甘くない恋愛小説。ひとことでこの小説を表現しようとするとこうなるのでしょうか? よくコーヒー(珈琲と書いたほうがこの場合は適切でしょうか)は大人の飲み物だといわれることがあります。初めて珈琲を飲んでその苦さに驚いた記憶はありませんか。
 しかし、大人になってその良さを知ると何にも代えがたいもののように思われます。決して派手なストーリー展開や、あまあまな場面に出くわすわけではありませんが、不思議に心を惹きつける作品です。
 小説は面白くなければ小説ではない、は私の持論です。つまりストーリーということですね。しかし、ストーリーがすべてではないこともご理解いただけると思います。小説が文章というものでつくられている以上その文章のもつ雰囲気、リズム感、情感といったものは私たちを楽しませてくれる大きな要素です。
 この作品を読んでみてまず気のついたことは、文章がとても美しいということです。それは、なかなかお目にかかれそうでお目にかかかれない――そのように感じさせられました。まるで恋に恋する乙女? が、思いもかけず憧れの君に出会った思いです。
 物語は、島に住む夫婦と島を訪れてきた男との出会いから始まります。やさしい夫を大切に思いながらも妻は着任してきたその同僚の教師に心惹かれてゆきます。超えてはならない堰のはずだったのに、水が低目に流れるように彼女の恋はのっぴきならない所まで進んで行きます。
 美しい島の風景を背景に、狂おしい恋に揺れる切ない心が静謐に描かれてゆく……
 なお、この小説は第139回直木賞受賞作です。

<切羽とは、それ以上先へは進めない場所のこと>
更新日:2012/08/29(Wed) 14:34 [修正・削除] [管理人に通知]   投稿者:かごめ 
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